イノベーションの単語的意味

 学問的流行語に一般的なことであるが、イノベーションという単語も、パラダイムというかっての流行語と同じく、その単語の使い手によって千差万別の意味で使われている。イノベーションという単語に関する様々な用法の内で共通している内容は「革新」「変化」という程度しかない。実際、「イノベーション」という単語を、「革新」や「変化」という語に置き換えてもまったく問題はないように思われる。(ただし「変化」一般ではなく、どちらかといえば積極的な意味、肯定的な意味を持つ「変化」に限定されて使われる。)

 イノベーションという単語の意味それ自体も、日々イノベーションにさらされている。そのため有益な学問的コミュニケーションを行うために、イノベーションという単語をどのような意味で用いているのかということを明確にした上で議論することが必要である。

 まず一般的に用いられているイノベーション概念としてどのようなものがあるかを概観し、そうした理論的規定の内で本稿においては何を主たる対象として論じているのかを明確にすることにしよう。

何に関するイノベーションであるかという視点からは、イノベーションを次のように分類することができる。

a.プロダクト・イノベーション —- 製品が持つ機能や性能に関するイノベーション、製品そのものに関するイノベーション
b.プロセス・イノベーション —- 製品の製造プロセスに関するイノベーション、製品の製造法に関するイノベーション
c.ビジネス・イノベーション —- 個別企業のビジネスやビジネス・プロセスに関するイノベーション(aやbのイノベーションの先行的実現か、同時的実現を前提としてなされるのが一般的である)
d.産業イノベーション —- 個々の企業にとどまらず、産業レベルにおいてなされるイノベーション(メカトロニクス化、IT化、ソフトロニクス化などによる産業のあり方全体の変化)
e.地域イノベーション —- 産業のあり方や社会のあり方の変化にともなう地域のあり方の変化(LCCによる旅客数の増加などによる地域のあり方の変化など)、あるいは、ある特定の地域で先導的になされる地域のあり方の変化(経済特区の指定などによる地域のあり方の変化)
f.ナショナル・イノベーション
g.トランス・ナショナル・イノベーション

 本サイトで主として取り扱うのは上記の内のa,b,cの三つのタイプのイノベーションである。

 しかも本サイトでは、「プロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションがビジネス・イノベーションの必要条件である」という作業仮説のもとに議論をおこなう。

ただしビジネス・イノベーションの遂行に際して、プロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションが「同時」的に遂行されると考えているわけではない。ビジネス・イノベーションの遂行に際して、「新規」にはプロダクト・イノベーションもプロセス・イノベーションもまったくおこなわれないこともあることを筆者も認める。既存の経営リソースを利用し、それらの組み合わせ法や結合法を変えるだけでビジネス・イノベーションがおこなわれうることを筆者も認める。
 確かに、シュンペーターの「新結合」としてのイノベーションは、「新規」の技術革新抜きでも遂行可能である。当該時点で利用可能な既存要素の「新結合」だけでもイノベーションは遂行可能である。

 しかしそうした既存要素もまた過去の技術革新による生成物である。既存要素は、過去になされたプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションの生産物なのである。

というのも、ポーターも「どのような会社も多数の技術と関わっている。・・・企業の行なうあらゆることに何らかの種類の技術が必ず用いられている」「企業は、活動の集合体として、技術の集合体でもある。(A firm, as a collection of activities, is a collection of technologies.)」Porter(1985)p.167[ポーター(1985)p.210]と述べているように、企業のすべての活動には技術が関わっているからである。

Porter, Michael E. (1985). Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance, Free Press,pp.164-[ポーター, M.E. (土岐坤訳,1985)『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,p.207]

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